医師として働く中で、みなさんは何かしらの不安を感じたことはありませんか。
「労働時間に対して給与が安い」
「体力的にいつまで働けるか分からない」
など、不安の内容はさまざまあると推察します。
今回の記事では、大手医療ポータルサイト「m3.com」が2021年に実施したアンケートをもとに、「医師の将来への不安」を解き明かしていこうと思います。
「わたしも将来が不安で…」という方は、自身を見つめ直すきっかけになるでしょう。
ぜひ最後までお付き合いください。
早速ですが、アンケート結果を覗いてみましょう。
”医師の将来どう思う?”
m3.comより引用
対象は国内に籍を置く「821名の医師」で、「勤務医648名、開業医173名」の内訳です。
回答期間は「2021年18日から24日」ということで、コロナ真っ只中な点も注目ポイントの一つになります。
アンケートの結果ですが、「医師全体の約70%が将来に不安を抱える」というものでした。
「意外と多いなぁ」と感じる方もいるかと思いますが、個人的には「妥当な結果」と考えています。
日本人は「幸福度が低い民族」として有名です。
国連機関SDSNの「2021年度世界幸福度報告書」によれば、日本の幸福度ランキングは世界149カ国中56位という結果でした。
前回の62位からランクアップしたとはいえ、依然としてG7(主要先進国)の中でも最下位という低さです。
ランキングが低い理由としては、日本人が本当に不幸というよりも、「不安を感じやすい国民性」や「島国という閉塞的な環境」が要因として考えられています。
このような状況の中、医師だけが不安を抱えずに生活しているとは考えにくいです。
”日本の労働者全体の58%が、職業生活に関する強いストレスを感じている”
平成30年度 厚生労働省調査より
というデータもあります。
医師の場合、「当直明けも帰宅できない過酷な労働体制」や「命を預かる精神的プレッシャー」から、平均よりも高い割合で不安を抱えていると考察されます。
では、具体的な不安の内容はどのようなものでしょうか。
以下に、医師が抱える不安の内容と、その割合を示した表を提示します。
”医師の将来どう思う?”
m3.comより引用
勤務医・開業医ともに、「約50%の医師が収入に不安を抱えている」という結果になりました。
世間一般では「医師は高給取り」というイメージが強いようですが、実際の懐事情は読者のみなさんが一番よくご存知でしょう。
”医師の平均年収は約1,240万円”
平成28年 賃金構造基本統計調査の統計データより
と報告されており、職種別には「航空機操縦士」に次いで第2位の高収入を誇ります。
ただし、この「医師」の中には開業医・大学病院勤務医・民間病院勤務医など、さまざまな労働体型が混在しています。
そのため、あくまで「医師全体の平均年収」であることに注意しなければなりません。
とはいっても、「世間一般のサラリーマンよりは稼いでいる」という事実には変わりないでしょう。
そんな高収入を得ているにもかかわらず、「医師が収入を不安に思う」のはなぜでしょうか?
ここからは私の推測になりますが、おそらくは「いつまで働けるか分からない」という不安が根底にあるのだと思います。
他の項目も見てみると、「働き方(労働環境)」「自身の体調や体力」についても、多くの医師が不安を抱えていることが読み取れます。
つまり、「今は高給与を得ているが、いつまで働けるか分からない」「いつか過労で倒れるかもしれない」という不安が垣間見えるのです。
誤解をおそれず言うなら、医師の労働環境はブラックです。
いくら給与が高水準でも、「健康を考慮すると収入が不安」という医師が多いことが考察されます。
この不安を拭うことは容易ではありませんが、根本的な解決には「将来のキャリア形成」について真剣に考えることが大切です。
医師のキャリア形成については、こちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はご覧ください。(→卒後年別!医師の働く目標とキャリア形成の考え方を解説 リンク)
今回のアンケート項目には、「AIの進化などによる活躍の幅の減少」という項目があります。
ひと昔前では考えられなかった内容ではないでしょうか。
近年のAI(人工知能)分野の成長は著しく、医療分野での活躍にも期待がされています。
具体的には「CT・MRIなどの画像診断の自動化」や「問診による病名予測・近隣病院の紹介」などが、実用化されつつあります。
これは喜ばしい反面、医療従事者の仕事が奪われる可能性も示唆されています。
麻酔科医にとっても他人事ではなく、「バイタルサインの推移から今後のトレンドを推測して、自動的に薬物を調整するアルゴリズム」が開発される可能性すらあるのです。
たしかにAIの技術革新には目をみはるものがありますが、AIがすべての仕事を網羅できるわけではありません。
どんなにAIが発達しても、必ず「医師でなければ出来ない」領域があると、私は確信しています。
例えば「患者に寄り添うこころ」。
ヒトは不安を共有したい生き物です。その役割はコンピューターには果たせず、医師という存在が大きな役割を果たします。
「今後の活躍の場」が不安な方は、「AIが代行できないような技術」「患者とのコミュニケーション能力」などを意識して磨いてはいかがでしょうか。
医師は過酷な仕事です。
近年は「医師の働き方改革」も叫ばれていますが、問題の解決には長い期間が必要でしょう。
アンケート結果からは、約7割の医師が将来に不安を抱えることが分かりましたが、その不安の大部分には「医師の労働環境」が関与しているようです。
「所属する医局の事情」や「病院の経営方針」など、さまざまな事情があると推察しますが、不安の根本的な解決には「自身ともう一度向き合う」ことが大切です。
キャリアアップ、収入、ライフワークバランス…。
本記事をきっかけに、何を最重視するか考えてみてはいかがでしょうか。
著者 広下 若葉
現役医師ライター。
麻酔科医として勤務する一方、ライターとして数々の作品を執筆。
麻酔科専門医の竹森が地方での深刻な麻酔科医不足を解消するために設立した一般社団法人です。
麻酔科医の重要性の啓蒙、麻酔科医の専門技術・知識の更新をサポート、
地域の医療水準向上への協力を理念に掲げ、質の高い麻酔科医を紹介し、総合的により安全かつ
円滑な手術室運営に貢献してきました。
2024年度から実施される医師の働き方改革に向けた取り組みもおこなっていきます。
クローズドな麻酔科医ネットワークとは別にオープンな医師紹介の需要にも応えるため、
麻酔科医専門の求人サイトも運営しております。