近年のAI(人工知能)技術の発展は凄まじいものがあります。
某有名フリマアプリでは、出品したい商品の写真をアップロードするだけで、AIが自動的に商品名をリストアップしてくれます。
また、秋葉原にある寿司店では、素材の購入価格からAIが自動的に寿司の価格を設定し、決済サービスまでしてくれるそうです。
もちろん医療分野も例外ではありません。
CT画像を自動認識し、放射線科専門医に負けず劣らずの高精度な診断が可能なことは、みなさんもご存知でしょう。
介護現場においては、入居者の見守りや転倒の検知にも、AI技術は応用されているのです。
このようなAI技術の発達は、医師の負担軽減につながる可能性があります。
医師の働き方改革という観点からは喜ばしい反面、AIに仕事が奪われる不安を抱く方も多いのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、医療分野におけるAI技術の現状をお伝えし、「医師の仕事がAIに奪われる」ことがあるのか考察したいと思います。
加えて、記事後半では「AI時代を生き抜く」ために、医師に求められる能力についても言及しています。
AIの成長スピードを考えると、AIが医療現場に本格参入する未来も遠くはありません。
「未来を生き抜くために何が必要か?」、今こそ真剣に考えてみませんか。
医療分野において、具体的にAI技術はどのような役割を果たしているのでしょうか。
ここでは、医療分野におけるAIの実用例を2つ解説したいと思います。
AIがもっとも得意なこと、それは「画像認識技術」です。
AIの画像認識技術では、「ディープランニング」という学習システムが利用されています。
ディープランニングでは、AIみずからが大量の画像データを認識、分析し、自動的にその特徴を発見することが可能です。
この技術により、画像パターンの認識精度、スピードが飛躍的に向上し、迅速で正確な画像診断が可能になりました。
現在ではCTやMRI検査の読影にとどまらず、内視鏡検査、エコー検査、病理検査の画像診断にも臨床応用されています。
しかも、それぞれの専門医が診断するよりも、短時間で見落としリスクを軽減した診断が可能なのです。
医師が求められるスキルの一つが「診断技術」です。
従来の診断方法は、患者が訴える症状・バイタルサイン・検査データなどを総合的に考慮し、医師みずからの経験を照らし合わせて疾患を推測するものでした。
しかし、パターン認識技術はAIの得意とするところ。
AIに膨大な患者データを登録し、目の前の患者と照らし合わせることで、患者が抱える病気を推測することができます。
国内においては、「アイメッド」と呼ばれる診断用スマホアプリが実用化されています。
患者自身は提示された症状から該当するものを選ぶだけで、AIが自動的に病気を診断してくれます。
加えて、最寄りの医療機関まで教えてくれるサービス付きです。
数年前までは、医療機関に出向き、対面式の診察を受けて、診断を受けることが当たり前でした。
それが現在では、自宅にいながらスマホ一つで診断が受けられるまでになったのです。
AIの成長スピードは、私たちの想像よりはるかに早いのかもしれません。
ここまでを読むと、「将来的に医師は不要になる」と不安に思われる方もいるでしょう。
実際、一部のエコノミストは「将来的に医師の仕事の8割がAIに代替される」と指摘しています。
しかし、筆者は「医師が不要になることはない」と確信しています。
現在ある仕事の一部がAIに代行されることはあっても、そこには必ず「医師にしか出来ない仕事」があるからです。
では具体的に「AIが代行出来ない仕事」には、どのようなものでしょうか。
どんなに発達しても、結局AIがおこなっていることは「計算」です。
AIに「感情」というものは存在しません。
しかし医療の中心である患者は、感情をもった「ヒト」です。
ガンと宣告されたら悲しむし、手術が必要とわかれば不安になります。
そして、このような感情を共有できる存在は、やはり「ヒト」しかおりません。
医療の現場において、医師という職業はチームのリーダー的存在です。
そのため、患者の立場からすれば、医師の言葉がもつ威力はとても大きいものがあります。
コミュニケーション能力に秀で、患者が信頼をおく医師が、AIとの競争に負けるとは考えにくいでしょう。
AIによる画像診断・病名予測は優れた技術ですが、ともに「過去のパターンから推測」しているにすぎません。
そのため、人類が経験したことのない「未知の症例」に、AIだけで対応することは困難なのです。
未知の症例として記憶に新しいのが、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」でしょう。
中国武漢市から始まり全世界的なパンデミックを引き起こした同ウイルスは、人類がかつて経験したことのない感染力や致死率を有していました。
当然ですが、AIに登録されている過去の医療情報にCOVID-19は含まれていません。
もしAIが全ての診断をおこなう世界であれば、呼吸困難で苦しむ患者を新型肺炎と診断することはできなかったでしょう。
特に感染症においては、感染の拡大初期における初動が大切です。
過去の診療の経験から未知の症例の可能性を導き出し、その対応をおこなえるのは生身である医師だけなのです。
AI技術の発達が医療に変革をもたらすことは間違いありません。
場合によっては、いま医師が担っている役割を、AIが代行する可能性もあるでしょう。
しかし、どんなに発達してもAIは手段の一つにすぎません。
ヒトである医師しか遂行できない業務は必ずあります。
AIとの差別化を図るためにも、コミュニケーション能力を磨いたり、柔軟な対応力を備えておく必要があります。
AIが医療現場に本格参入する未来は、すぐそこに迫っています。
医師が試されているのは、「ヒト」としての総合力なのかもしれません。
著者 広下 若葉
現役医師ライター。
麻酔科医として勤務する一方、ライターとして数々の作品を執筆。
麻酔科専門医の竹森が地方での深刻な麻酔科医不足を解消するために設立した一般社団法人です。
麻酔科医の重要性の啓蒙、麻酔科医の専門技術・知識の更新をサポート、
地域の医療水準向上への協力を理念に掲げ、質の高い麻酔科医を紹介し、総合的により安全かつ
円滑な手術室運営に貢献してきました。
2024年度から実施される医師の働き方改革に向けた取り組みもおこなっていきます。
クローズドな麻酔科医ネットワークとは別にオープンな医師紹介の需要にも応えるため、
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